大学生の頃⑥

辛い出来事も多々あり、さらに外見を磨くことを決意した僕は、いよいよ最凶難易度のミッションに挑まねばならなかった。




それは“美容室に突入すること”だ。





僕はこれまで床屋でしか髪を切ったことがなく、僕にとって“美容室”というものはまさしく未知の領域だったのだ。



何事も未知の領域に踏み込むには勇気が必要になる。





僕はネット(2ちゃんねる)を駆使し、オタク系の男子におすすめの美容室を徹底的に調べた。



そして、その結果、ついに有益な書き込みを見つけたのである。




「横浜駅から歩いて5分のとこにある〇〇〇〇は人見知りの俺でも入りやすくてオヌヌメ。メンズカットが上手な美容師さんが多くいる」


といった内容であった。






ちなみに僕が住んでいた学生寮の近くには昔ながらの床屋はあるが、美容室は少なく、その数少ない美容室の口コミも微妙だった。



だから僕は夏休みに東京に戻るタイミングで、おすすめの美容室に突入する計画を立てたのだ。





なお、この美容室は予約制なので、いきなりお店を訪れてもダメらしい。



というわけで、電話で予約をしなければならないわけだが、電話予約すら緊張してなかなかできなかったことを覚えている。







そしていよいよ予約した日。


いざその場へ向かうと、そこにはとてつもなくおしゃれな外観の美容室があった。




外観を見ただけで、尻込みしてしまい中に入る勇気が出ない。




そこで僕は、近くのファミリーマートで瓶に入ったお酒(リキュール)を(どういうわけか2本)購入し、それらを一気に煽った後、意を決して店内に踏み込んだのだった。




美容室の店内は白を基調とした内装となっており、すさまじく洗練された雰囲気が漂っていた。





(これのどこが入りやすいんだ!完全なガセ情報じゃねぇか!)



僕は「入りやすい」などと2ちゃんに書き込んだ人物を心の中で恨んだ。






店内に設置された椅子に座ってしばらく待っていると、美容師さんがやってきた。



小柄でめちゃめちゃおしゃれなお姉さんだった。





お姉さんは「荷物をお預かりしますねー」と言って、僕のトートバッグを持って行ったのだが、その際に「ガチャン」と瓶がぶつかる音がしたのだ。




それによって、お姉さんは僕が飲酒していることに気づいたらしい。





「もしかしてお酒飲んでます?笑」「罰ゲームで誰かに連れてこられたんですか?笑」


笑いながら僕に質問を投げかけるお姉さん。





僕は恥ずかしくて、穴があったら入りたい思いであった。







とりあえず、なんとか平静を装いながら「髪型を変えたい」ことを伝える僕。




するとお姉さんは「ソフトモヒカンなんかは似合うと思いますよー」と説明してくれた。



お姉さんいわく、僕は丸顔なので、ソフトモヒカンのように髪を立たせる髪型にすると、全体的なバランスがとれるのだという。





緊張しつつも、なんとかお姉さんとの会話に耐え続ける。


そして髪を切り終わったとき、鏡を見ると、そこには今までとは違う姿の僕が映っていた。





「入りやすい美容室」というのは僕にとってはデタラメだったけど、「メンズカットが上手な美容師さんが多くいる」という情報は本当だったんだ。


その時の僕はそう思った。







美容室からの帰り道。


新しい髪型になったのが嬉しくて、近所のスーパーマーケットに設置されている証明写真機で写真を撮った。





その写真は今でも大切に保管してある。




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