ニートだった頃①
大学院中退が受理されると、学生寮から出ていかなければならない。
4年半暮らした狭い部屋ともおさらばだ。
僕は寮の管理人さんに申し出ることで、寮を出る手続きを進めたのだが、退去するのに結構なお金がかかった。
というのも、部屋の壁にカビが発生したことで黒ずんでおり、クリーニング費用が必要だったからだ。
東京に住んでいるとわからないかもしれないが、地方の場合、窓を開けていたり、網戸にしているだけでも外から虫が大量に入ってくる。
だから、僕は基本的に換気をせずに、窓を閉め切った状態で生活をしていたのである。
寮を出るのにもお金がかかるし、引っ越しにも高額な費用がかかる。
バイトをしていない僕にとってはあまりにも痛い出費だ。
(そうだ、塩漬けにしていた株を売ろう!)
そう思って、久々に丸三証券の口座を開いてみた僕は目を疑った。
保有資産総額が16万円ほどになっていたのだ。
もともと43万円を投資していたわけで、それが16万円になったのだから、計算では60%以上下落したことになる。

(・・・なんでこんなことに・・・)
僕は茫然としてしばらく何も考えられなかったが、原因はある程度わかっていた。
“リーマンショック”だ。
リーマンショックとは米国の投資銀行“リーマン・ブラザーズ”が経営破綻したことで生じた経済危機であり、ニュースで頻繁に取り上げられていたので、当然知っていたわけだが、当時の僕は、それが具体的にどういうことなのかを理解してはいなかった。
(マジかよ・・・ふざけんなよ!なんで株に手を出したりなんかしたんだよ!)
(こんなことなら1年前に塩漬けにせずに売っておけばよかったよ)
今さら後悔したところで手遅れなわけだが、怨みつらみの言葉が無限にあふれ出てくる。
僕は泣きそうになりながら、保有している全銘柄を売却し、損失を確定させた。
手元に残ったお金はわずか。
これでもう株を買うことは一生ないだろう。
そんなことよりも、これからはお金を節約していかなければならない。
そう考えていると、東京に帰るための交通費すら、もったいなく感じてきた。
こうして僕は引っ越し業者に荷物を送ってもらった後、各駅停車の電車を利用して東京の自宅へと戻ったのだった。
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